みなさんこんにちは!あじたまごです!
「国際共同治験が倍増するって聞いたけど、CRAの仕事にどう関係するんですか?」——先日、政府の「骨太方針2026」原案に関する報道を見た読者の方から、こんな質問をいただきました。
2026年6月30日の経済財政諮問会議で示された原案には、たしかに「国際共同治験の倍増」という文言が盛り込まれています。
ただ、ニュース記事だけを読むと「国際共同治験」という言葉自体が難しく、CRA(臨床開発モニター(CRA))やCRA転職検討者にとって何が変わるのかがイメージしづらいと思います。
GPM(Global Project Manager)として国際共同治験のプロジェクトマネジメントにも関わってきた立場から、政策の内容と業界への影響を整理してお伝えします。
結論から先にお伝えします。
国際共同治験の件数は今後も増えていく見通しで、CRA・CRO業界にとっては求人が増える追い風です。
ただし、恩恵を受けやすいCRAとそうでないCRAには差が出ると私は見ています。
骨太方針2026「国際共同治験倍増」とは何か
骨太方針2026原案で示された内容
政府は2026年6月30日の経済財政諮問会議で、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2026」の原案を示しました。
原案には、国際共同治験の倍増を掲げて官民投資を拡大する方針に加え、2027年度の薬価改定でイノベーション評価・費用対効果評価の見直しに着手することも盛り込まれています。
具体的にどの年を基準に何年で倍増させるのか、という細かい数値目標・期限は原案の報道時点では明記されていません。
そのため本記事でも「〜を目指す方針が示された」という表現にとどめ、断定はしません。
今後の正式決定内容は内閣府 経済財政諮問会議のページで随時公開されるはずなので、確定情報が出た際はあらためてお伝えします。
なぜ今、国際共同治験を増やそうとしているのか
背景にあるのが、いわゆる「ドラッグロス」問題です。
海外では承認・使用されている新薬が、日本国内では開発すら着手されない、あるいは大幅に遅れて承認されるケースが近年増えていると指摘されています。
国際共同治験は、日本を含む複数国で同時並行にデータを集められるため、日本だけ開発が後回しになる状況を避けやすくなります。
骨太方針での「倍増」方針は、このドラッグロスを解消し、国内投資を拡大して「強い経済」を実現する取り組みの一環と位置づけられています。
骨太方針というと経済政策のイメージが強いかもしれませんが、治験の現場にいる立場からすると、こういう政府方針は数年単位でじわじわ効いてきます。以前お伝えしたCRAの将来性を解説した記事でも触れましたが、AIによる効率化と治験そのものの件数増加は、CRAの仕事量にとって別々に効いてくる要因だと考えています。
そもそも国際共同治験とは?CRA目線でわかりやすく解説
国際共同治験とは、単一の治験実施計画書(プロトコル)に基づき、複数の国・地域で同時に実施する治験のことです。
各国でバラバラに治験を行うより、症例(被験者データ)を効率よく集められ、開発スピードを上げられるのが特徴です。
日本の国際共同治験への参加は、実は今回の骨太方針で急に始まった話ではありません。
公表されているデータでは、日本が参加した国際共同治験は2006年の19試験から2018年には174試験(世界全体の国際共同治験のうち19.7%)まで拡大しており、10年以上前から一貫して増加傾向にあります。
骨太方針2026は、このもともとの拡大トレンドを政策的にさらに後押しする位置づけと理解しておくと実態に近いと思います。
ICH E17ガイドラインが後押しした「国際共同治験がやりやすくなる」仕組み
この拡大トレンドを実務面で支えてきたのが、2018年6月12日付で厚生労働省から通知されたICH E17ガイドライン(国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則)です。
ICH E17は、複数国・地域にまたがる治験(多地域共同治験・MRCT)の統計解析計画において、地域全体および主要な部分集団にわたる治療効果の一貫性をどう評価するかという考え方を整理したガイドラインです。
日本を含む地域間で臨床的に意味のある差が見られた場合に、その要因を構造的に検証する手法まで示されており、「日本人データを含めた国際共同治験のデザインをどう組み立てるか」という実務上の判断基準を各国共通で持てるようになった点が大きな意味を持ちます。
GPMの実務目線で言うと、ICH E17以前は「日本人での結果は本当に他国と同じ傾向と言えるのか」という説明に、プロジェクトごとにかなりの時間と資料を割いていました。共通の考え方が示されたことで、日本を国際共同治験に組み込む設計そのもののハードルが下がった、というのが現場の実感です。
国際共同治験の増加はCRA・CRO業界にどう影響するか
| 観点 | 影響の見込み | 理由 |
|---|---|---|
| 求人数 | 増加傾向 | 治験の絶対数が増えれば、モニタリングを担うCRAの必要人数も増える |
| 求められる英語力 | 重要度が上昇 | 治験関連文書・規制当局とのやり取り・海外拠点との調整が英語ベースになりやすい |
| 案件のグローバル対応力 | 重要度が上昇 | 複数国の規制・データ解釈のすり合わせに対応できる経験が評価されやすくなる |
| CRA1人あたりの業務負荷 | 増える可能性あり | 日本は1人のCRAが担当できる施設数に制約があるとされ、案件増加時にボトルネックになりやすい |
この表からも分かる通り、「治験の件数が増える=CRAが余る」という話にはなりにくいと私は考えています。
むしろ、案件をさばききれず人手不足感が強まる局面すらありえます。
求人・キャリアへの影響
CRO各社は国際共同治験の経験者を積極的に採用したい意向が強く、英語力・グローバル案件への対応実績があるCRAは選考で有利になりやすい傾向があります。
逆に言えば、国内案件のみの経験でキャリアを積んできたCRAにとっては、今のうちに英語力を伸ばしておく価値が上がっているとも言えます。
英語力に不安がある方は、CRAは英語ができないとダメ?「ついていけない」を克服する勉強法やCRAに必要な英語力とキャリアに与える影響も参考にしてみてください。
実務課題:英語力・施設管理の制約
一般的に、日本のCRAは1人あたりが担当できる医療機関(施設)数に制約があるとされ、これが国際共同治験のスピード・コスト面での課題として指摘されることがあります。
案件が増えるほど、この制約が現場のボトルネックとして表面化しやすくなります。
この構造は、以前お伝えした治験エコシステムとは?CRAが直面する「No More Too Much」とも関係する話です。
治験の件数・複雑さが増す一方で、現場の運用体制がそのままだと、負荷が特定の担当者に偏りやすくなります。
国内治験と国際共同治験、CRAの働き方はどう違うのか
結論から言うと、国際共同治験のCRA業務は「英語での情報のやり取り」と「他国拠点との足並みを揃える調整」が上乗せされるイメージです。
| 項目 | 国内のみの治験 | 国際共同治験 |
|---|---|---|
| 使用言語 | 基本的に日本語のみで完結 | プロトコル・報告書は英語が基本、社内外のやり取りも英語が発生 |
| モニタリング報告 | 国内様式・国内基準に沿って作成 | グローバル共通様式に沿い、他国拠点のレビューを受けることが多い |
| スケジュール調整 | 国内の休日・稼働に合わせやすい | 各国の祝日・タイムゾーンをまたいだ調整が発生する |
| 規制対応 | PMDAとのやり取りが中心 | PMDAに加え、FDA・EMA等の海外規制当局の判断も踏まえた対応が必要になる場面がある |
| 症例数・スピード | 国内の医療機関数に依存 | 複数国で並行して症例を集めるため、開発スピードを出しやすい |
もちろん実際の業務配分は治験のフェーズや会社の体制によって変わるため、この表はあくまで一般的な傾向としてとらえてください。
ただ、CRAとして「国際共同治験の経験がある」と言えることが、CRO各社の採用担当者から見てなぜ評価されやすいのかは、この表を見るとイメージしやすいのではないでしょうか。
国際共同治験時代に評価されるCRAになるには
- 英語力は「話せる・書ける」だけでなく、規制文書・データの英語表現に慣れておくことが実務的な差になる
- 国際共同治験の経験がなくても、選考時に「グローバル案件に関心がある」姿勢を伝えられると評価されやすい
- 転職エージェント経由で、国際共同治験の案件を多く抱えるCRO・製薬会社の求人動向を確認しておく
- TOEIC等のスコアだけでなく、モニタリング報告書・逸脱報告といった実務文書を英語で読み書きした経験の有無をアピール材料として整理しておく
- 国際共同治験に強いCRO(外資系CRO・大手日系CROのグローバル部門など)は、選考時に英語面接や英語での職務経歴書提出を求めることがあるため、早めに準備しておくと安心
私自身、GPMとして各国のプロジェクトメンバーとやり取りする中で感じるのは、英語力そのものよりも「分からないことを臆せず確認できるか」の方がボトルネックになりやすいということです。文法が完璧でなくても、疑問点をその場で潰せる人はグローバル案件でも重宝されます。逆に、文法は完璧でも確認を後回しにしてしまうタイプは、国際共同治験だと足並みが乱れる原因になりがちです。
国際共同治験・骨太方針についてよくある質問
国際共同治験の倍増はいつまでに達成される予定ですか?
2026年6月30日時点の骨太方針原案の報道では、具体的な達成期限・基準年は明記されていません。今後の正式決定を待つ必要があり、現時点では「倍増を目指す方針が示された」という段階です。
国際共同治験の経験がなくても、CRA転職で評価されますか?
未経験でも問題ありません。ただし、英語力やグローバル案件への関心をアピールできると、選考で有利になりやすい傾向があります。まずは国内案件で経験を積みながら、英語力を並行して伸ばしていく方針で問題ないと考えられます。
治験が増えると、CRAの仕事はきつくなりますか?
案件数が増える局面では、担当する施設・業務量が一時的に増える可能性はあります。ただし、これは業界全体の成長局面であり、経験を積む機会が増えるという見方もできます。会社ごとの人員体制・サポート体制は転職時に確認しておくと安心です。
ドラッグロスとドラッグラグの違いは何ですか?
ドラッグラグは海外で承認された新薬が日本で承認されるまでに時間差が生じる問題、ドラッグロスは海外で使える新薬が日本では開発自体に着手されず、そもそも承認申請に至らない問題を指すとされています。国際共同治験の拡大は、どちらの問題の解消にも関わる取り組みです。
国際共同治験の経験を積むには、どんな会社を選べばいいですか?
外資系CRO・大手日系CROのグローバル開発部門・グローバル展開に積極的な製薬会社は、国際共同治験の案件を多く抱えている傾向があります。転職エージェントに「国際共同治験の経験を積みたい」と明確に伝えたうえで、案件の国際性を軸に求人を紹介してもらうのがおすすめです。
国際共同治験の広がりを踏まえて、自分のキャリアが今の市場でどう評価されるか気になる方は、一度CRAが登録すべきおすすめエージェントで客観的な評価を受けてみることをおすすめします。
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