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治験エコシステムとは?CRAが直面する「No More Too Much」と今後の実務への影響

みなさんこんにちは!あじたまごです!

「治験エコシステム」という言葉、最近よく耳にしませんか?上司から「今後はRBA(リスクベースドアプローチ)を意識して」と言われたり、社内研修で「ICH E6(R3)対応が始まる」という説明を受けたり。でも正直なところ、「概念はなんとなくわかるけど、明日の自分のモニタリング業務に何が変わるの?」という疑問を抱えているCRAは多いと思います。

私自身、CRAとして5年間現場を経験したのち、CTM(Clinical Trial Manager)、PM(Project Manager)、そして現在のGPM(Global Project Manager)としてキャリアを積んできました。その過程で、「治験エコシステム」という大きな変化の波が、現場のCRAにどれほどリアルな影響を与えているかをひしひしと感じてきました。

この記事では、厚生労働省の公式資料PMDA(医薬品医療機器総合機構)の治験エコシステム推進事業、そして2025年秋に発出された「治験エコシステム業界宣言2025」をもとに、CRAの目線で「何がどう変わるのか」を解説していきます。

この記事のポイント

  • 治験エコシステムの3つの柱(中央IRB・FMV・共通ICF)と基本概念
  • 「業界宣言2025」が撤廃を求める日本独自の過剰ローカルルールとは何か
  • 「チェックリスト的GCP」から「考えるGCP」へのマインドシフトの具体的方法
  • CTQ(Critical to Quality)とRBA(リスクベースドアプローチ)の現場への落とし込み
  • 「No More Too Much」リーフレットを使ったCRCとの具体的な対話スクリプト

治験エコシステムとは?基礎知識と導入の背景

まず「治験エコシステムとは何か?」から整理していきましょう。

この概念を理解せずに「RBAをやれ」「CTQを意識しろ」と言われても、現場の行動は変わりません。逆に概念を正確に理解すれば、なぜ今この変化が起きているのかが腑に落ち、主体的に動けるようになります。

  • ドラッグロス解消への切り札としての位置づけ
  • エコシステムを支える3つの柱:中央IRB、FMV、共通ICF
  • 【最新動向】ICH E6(R3)と令和9年GCP省令改正の方向性

ドラッグロス解消への切り札としての位置づけ

治験エコシステムとは、「国民にいち早く治療薬を届けるため、製薬企業・医療機関・規制当局・被験者等あらゆるステークホルダーが協力して効率的に治験を行うシステム」と定義されています。

背景にあるのは、日本におけるドラッグロス問題です。日本では、海外で先行承認された新薬が日本には導入されない、あるいは大幅に遅れるという状況が続いています。その一因が「日本の治験実施体制の非効率さ」にあるとされています。

私がCRAとして現場に出ていた頃から、「日本は治験の手続きが複雑すぎて、グローバル治験のスポンサーが日本を外すケースが増えている」という話は業界内でたびたび耳にしていました。その問題意識が、制度レベルの改革として結実したのが治験エコシステムの推進です。

治験エコシステムは単なるスローガンではありません。厚生労働省が公式資料で示している通り、具体的な3つの柱として体系化されています。

あじたまごGPM@元CRA
あじたまごGPM@元CRA

CRAとして現場に出ていたとき、「この書類、前回の試験でも全く同じ内容を作ったのに、なぜまた一から作るの?」と思ったことが何度もありました。そういった「なぜやるのかわからない繰り返し業務」こそが、エコシステムが変えようとしている部分なんですよね!

エコシステムを支える3つの柱:中央IRB、FMV、共通ICF

治験エコシステムは、以下の3つの具体的な施策を柱としています。

概要現場への影響
中央IRB(治験審査委員会)の普及多施設共同治験で各施設がバラバラに審査する代わりに、1つのIRBが一括審査(Single IRB)施設ごとの審査待ちの解消→スタートアップ期間の短縮
FMV(Fair Market Value)の導入治験費用を業務量・市場価格に基づいて合理的に算定過剰な費用交渉の減少→施設との関係改善
共通ICFテンプレートの導入各施設・各スポンサーが作成していたインフォームドコンセント文書を標準化文書作成・修正業務の大幅削減

特に共通ICFテンプレートの効果は目覚ましく、すでに導入した医療機関では作業時間が6割削減されたという報告もあります。

多施設共同治験では、従来は各施設のIRBが独自に審査を行うため、施設によってスタートアップのタイミングが大きくズレていました。Single IRBの普及が進めば、CRAが抱える「A施設はもう始まっているのにB施設がまだ審査中」というストレスが解消されていきます。

【最新動向】ICH E6(R3)と令和9年GCP省令改正の方向性

治験エコシステムの推進と並行して進んでいるのが、GCP(医薬品の臨床試験の実施に関する基準)の国際的な改訂です。

ICHのGCPガイドライン「E6(R3)」は、従来の「チェックリスト的なモニタリング」から「リスクに基づく質の管理」へのパラダイムシフトを明確に方向づけています。そして日本でも、この国際標準に合わせた医薬品GCP省令の改正が令和9年(2027年)4月施行を目標に進められているとされています。

現場のCRAにとっての意味は明確です。「とにかく全項目をチェックして記録に残す」というアプローチでは、今後のGCPに対応できなくなるということです。

「治験エコシステム業界宣言2025」が示す質への転換

2025年秋、製薬協など4団体による共同ステートメント「治験エコシステム業界宣言2025」が発出されました。これは単なる宣言ではなく、CRAの実務に直接影響する具体的な内容を含んでいます。

  • 製薬協など4団体共同ステートメントの意義
  • 撤廃されるべき「日本独自の過剰なローカルルール」とは

製薬協など4団体共同ステートメントの意義

「治験エコシステム業界宣言2025」は、製薬企業・CRO・医療機関・規制当局という、治験に関わるあらゆるステークホルダーが「過剰な運用をやめて、本質的な品質管理に注力しよう」という方向で一致したことを示す、歴史的な宣言です。

宣言の骨子は以下の3点です。

  • 日本独自の過剰な運用を削減する(Not in ガイドライン=科学的根拠のない手順は廃止)
  • CTQ(Critical to Quality)とリスクを医療機関と共有・協議する
  • 手順の簡素化と、その背景にある科学的根拠を説明する

特に重要なのは3点目です。「なぜこの手順が必要か」を説明することなく「規制だからやれ」と押しつけてきた従来の姿勢を改め、CRAが科学的・倫理的な根拠を理解して、医療現場と対等に対話することが求められるようになりました。

あじたまごGPM@元CRA
あじたまごGPM@元CRA

PM・GPMになってからスポンサーとの会議に出るようになって、初めて「あの手順、実は国内独自のローカルルールだったの?!」と気づいたことがありました。現場のCRAの頃は「なんとなく全部やらなきゃいけないもの」と思い込んでいたんですよね…!

撤廃されるべき「日本独自の過剰なローカルルール」とは

医療機関へのアンケートでは、CRO・スポンサーへの不満として以下が挙げられています。

  • 「電子ファイルのやり取りが非効率すぎる」――当然デジタルで共有できる書類を紙で要求するケース
  • 「スポンサー・CROごとに対応依頼の内容が違いすぎる」――同じ試験でもA社とB社で要求フォーマットが異なる
  • 「CRAのスキル不足」――ガイドラインの趣旨を理解せず、機械的にチェックリストをこなしているだけ

3つ目はCRAとして耳の痛い話ですが、これは個人の問題というより「ガイドラインの趣旨を理解させる教育がなかった」という組織・業界の構造的問題でもあります。

日本CRO協会が公開している「No More Too Much」リーフレットは、まさにこういった「過剰要求の温床」になっているローカルルールを可視化し、医療機関と対話するためのツールとして機能します。

治験エコシステムがCRAの実務に与えるリアルな影響

概念や政策の話はここまでにして、「結局、私の日々のモニタリング業務は何が変わるの?」という問いに直接答えていきます。

  • 「チェックリスト的GCP」から「考えるGCP」へのパラダイムシフト
  • CTQ要因の特定とRBAの実践スキル
  • 「Sponsorごとの要求が違う」板挟み課題への向き合い方

「チェックリスト的GCP」から「考えるGCP」へのパラダイムシフト

従来のモニタリングは「SOPに書いてある全項目をチェックして、記録に残す」というチェックリスト型でした。これは一見、確実性が高いように見えますが、実際には「なぜそのチェックが必要なのか」を理解しないまま機械的に作業が続く弊害を生んできました。

これからのモニタリングに求められるのは、「この試験で最も重要な品質要素は何か(CTQ)を把握し、そのリスクが高い箇所に重点的にリソースを投入する」という思考です。

私がCRAからPMに昇格した際、最初に上司に言われた言葉が「全部を均等に見ようとするな。一番怖いのはどこかを常に考えろ」でした。これがまさに「考えるGCP」の本質です。

チェックリスト的GCP考えるGCP
全症例の全ページをSDVする主要エンドポイントに関わる症例を優先SDVする
全書類の提出を均一に追いかける試験の安全性に直結する書類を最優先で管理する
逸脱は全て同等に報告逸脱の重大性と試験への影響を評価してエスカレーションを判断

CTQ要因の特定とRBAの実践スキル

CTQ(Critical to Quality)とは、「この試験において品質上クリティカルな要素は何か」を明確にすることです。

例えば、オンコロジー試験であれば「有効性の主要エンドポイントとなる腫瘍縮小率の正確な記録」はCTQの最上位に来ます。一方、「患者のアレルギー歴の記録漏れ」も重要ですが、優先度はエンドポイントに関わる部分に比べると下がります。

RBA(Risk-Based Approach)はこのCTQをベースに、リスクの高い領域に限定して重点的なモニタリングを行い、リスクの低い領域は軽量化するというアプローチです。

実務での第一歩は、担当試験の主要エンドポイントと、それが記録される原資料(ソースドキュメント)を特定することです。それが特定できれば、次回のモニタリングで「どこを重点的に見るべきか」が自然に決まってきます。

CTMやPMとして多くの試験を横断的に見てきた経験から言えば、CTQを意識しているCRAとそうでないCRAでは、訪問後のアクションアイテムの質が明らかに違います。転職市場での評価にも直結するスキルです。

キャリアアップを考えているCRAの方には、グローバル試験での経験を積みながらRBAの実践スキルを磨くことをおすすめします。グローバル案件を多く扱うエージェントに相談してみるのも一手です。

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「Sponsorごとの要求が違う」板挟み課題への向き合い方

「A社スポンサーはX形式の書類を要求するのに、B社スポンサーはY形式しか受け付けない。医療機関からは『どうしてCROによって全部違うの?』と言われる」——これは現場のCRAが最も消耗するシナリオの一つです。

この問題に対するアプローチとして、業界宣言2025は明確な方向性を示しています。「科学的根拠のある要求」と「慣習的なローカルルール」を切り分けることです。

  • その要求はGCP省令・ICHガイドラインに根拠があるか? あるなら医療機関にも説明できる
  • 根拠がないなら、スポンサーに「廃止提案」を上げる → 業界宣言がその交渉の根拠になる
  • 「No More Too Much」リーフレットを医療機関に共有し、「私たちも変えようとしている」という姿勢を示す

これはCRAひとりでできることではなく、CTMやPMを巻き込んで取り組むべき課題です。しかし、「なぜこの要求が過剰なのか」を言語化できるCRAになることで、上層部への提案力が格段に上がります。

こういった複雑なマルチステークホルダー調整スキルを持つCRAは、転職市場でも高く評価されます。CRA特化の転職エージェント「Answers(アンサーズ)」では、こういったキャリア上の強みをどう訴求するかについても相談できます。

明日から使える!「No More Too Much」に基づくCRCとの対話術

知識を実務に変えるための最終章です。「No More Too Much」リーフレットを使って、明日からCRCと対話できる具体的なスクリプトを提供します。

  • リーフレットを活用したコミュニケーション具体例・トークスクリプト
  • 「効率化のパラドックス」に陥らないために:まとめ

リーフレットを活用したコミュニケーション具体例・トークスクリプト

日本CRO協会の「No More Too Much」リーフレットは、医療機関から指摘を受けてきた「過剰な業務要求」を可視化したものです。これを対話の入り口に使う具体例を見てみましょう。

【シーン1】SDVの頻度について施設から「また来るの?」と言われた場合

「先日、日本CRO協会が『No More Too Much』という取り組みを始めまして、私たちCROも過剰なモニタリング頻度を見直す方向で動いています。この試験では、主要エンドポイントに関わる部分を中心に重点的に確認し、そうでない部分は訪問回数を減らせるよう、社内で検討中です。今後こういった対話を積み重ねていければと思っています」

このように、「私個人の判断」ではなく「業界全体の方向性」として説明することで、医療機関は「CRAがサボろうとしている」ではなく「時代が変わっている」と受け取ります。

【シーン2】スポンサーから「全症例SDVを継続すること」と指示があるが、施設から負担軽減を求められている場合

「全症例SDVについては現在スポンサーと協議中です。このリーフレットにあるとおり、業界全体で科学的根拠に基づかない過剰要求を見直す動きがあります。この試験のCTQを整理したうえで、次回訪問前にスポンサーへの提案書をまとめてきます」

重要なのは「やります」「やりません」で終わらせず、「次のアクション」を提示することです。これが信頼を生みます。

あじたまごGPM@元CRA
あじたまごGPM@元CRA

CTMとして多くの施設訪問に同席してきましたが、「業界がこう変わっている」という文脈で話せるCRAは、施設の先生やCRCからの信頼が明らかに違います。知識は武器になる、とつくづく感じます!

【スポンサーへのエスカレーションスクリプト(書面・口頭共通)】

「担当試験の○○施設より、XX書類の提出形式について負担軽減の要望をいただきました。当該要求について、GCP省令・ICH E6(R3)を確認したところ、現行の要求形式は日本独自の運用である可能性があります。『治験エコシステム業界宣言2025』の方向性に則り、要求フォーマットの見直しを提案したく、ご検討をお願いします」

根拠を3層(施設の声→規制の確認→業界宣言との整合)で積み上げることで、スポンサーも動きやすくなります。

「効率化のパラドックス」に陥らないために:まとめ

最後に、治験エコシステムを推進するうえで見落とされがちな視点を1つ共有します。

「効率化」の目的は「作業を減らすこと」ではありません。「患者さんへの価値最大化に、解放されたリソースを振り向けること」です。

SDVの頻度を下げることで生まれた時間を、「主要エンドポイントの精度確認」や「施設スタッフへの教育支援」に使う。これが治験エコシステムが目指す姿です。単に「楽になった」で終わると、品質が下がり、最終的には患者さんへの影響が出ます。

CRAとしてキャリアを積んでいく中で、この視点を持てるかどうかが、CTMやPMへのステップアップの分岐点になると私は信じています。

「次のキャリアステップとして外資系CROやグローバル試験への挑戦を考えている」という方は、まずはCRA特化の転職エージェントに現状を相談してみることをおすすめします。

Answers(アンサーズ)にCRAキャリアを相談する

あじたまごおすすめの転職エージェント一覧を見る

この記事のまとめ

  • 治験エコシステムとは、国民にいち早く治療薬を届けるため、製薬企業・医療機関・規制当局等が協力して効率的に治験を行うシステムである
  • 3つの柱は「中央IRB(Single IRB)の普及」「FMV(適正価格算定)の導入」「共通ICFテンプレートの導入」である
  • 共通ICFテンプレートの導入事例では、作業時間が6割削減された効果が報告されている
  • 「治験エコシステム業界宣言2025」は製薬協など4団体が共同で発出し、日本独自の過剰ローカルルールの撤廃とCTQ・リスクの医療機関との共有を求めている
  • ICH E6(R3)対応のため、日本では令和9年(2027年)4月施行を目標にGCP省令の改正が進められているとされている
  • 「チェックリスト的GCP」から「考えるGCP」への転換が求められており、CTQ(Critical to Quality)の特定が実務の出発点となる
  • RBA(リスクベースドアプローチ)はCTQをもとにリスクの高い領域に重点的にリソースを投入するアプローチである
  • 「Sponsorごとの要求の違い」問題には、要求の規制根拠を確認しスポンサーへの廃止提案を行うというアプローチが有効である
  • 「No More Too Much」リーフレットは、医療機関との対話の入り口として活用できる実践的なツールである
  • 効率化の目的は「患者さんへの価値最大化」であり、削減されたリソースをCTQ確認や施設教育に振り向けることが治験エコシステムの真の目指す姿である

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